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社長メッセージ

世界中の人々のライフタイムバリューを最大化し、世界一に

代表取締役

社長執行役員

高原 豪久

ユニ・チャームが想い描く「共生社会」

ユニ・チャームは、「持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献する」ことを、パーパス(存在意義)と定め、これをグループ社員一人ひとりが着実に実行できるようにミッション、ビジョン、バリューへと具体化しています。このうち、ミッション(使命)は「共生社会」の実現としています。

私たちが目指す「共生社会」とは、Social Inclusion(ソーシャルインクルージョン)を意味し、いわゆる生活弱者はもちろん、加齢や傷病、出産、生理などにより一時的または一定期間、不利を抱える状況にある人たちまでを包摂し、どのような状況においても、一人ひとりが自立しつつ、互いに尊重しながら適度な距離感で支え合い、誰ひとり取り残されることなく、自分らしく暮らし続けられる社会です。このような「共生社会」の実現に事業活動を通じて貢献したい、と私は考えています。

しかしながら、近年、気候変動への対応やビジネスと人権など、国境を越えてさまざまな立場の人々が対処しなければ解決できない環境問題や社会課題が取り沙汰されています。また、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に代表される感染症の対策や、地政学リスクへの対応、急激な為替変動やインフレーションの加速など、事業環境の不確実性はますます高まっています。

このような大きな変革の渦に見舞われていることもあり、多くの人が「これまで当たり前だと思っていたものが、必ずしも当たり前ではないのかもしれない」「自分が大切にしてきた価値観が揺らいでいる」「安全や安心は簡単に手に入るものではない」といったことに気付きつつあります。また、「モノからコトへの転換」と言われるように、単なる消費に満足するのではなく、自分の行いについて、他者から承認を得ることに喜びや安心を感じる価値構造へと変化しています。このような大きな時代の変化、生活者の変化は、当社が実現を目指す「共生社会」について、より多くの人が考える素地になっていると思います。

では、どのようにしてユニ・チャームは「共生社会」の実現を成し遂げようとしているのでしょうか。それは、当社の商品やサービスを支持するお客様を増やすことに尽きると私は考えています。なぜなら、当社が提供する商品やサービスは、あらゆる世代の人々に必要なものばかりであり、当社の商品・サービスが架け橋となることで、自然と他者を受け入れられるような分断のない社会が実現できると信じているからです。

2030年、世界一の企業を目指して

「共生社会」の実現に向けて、当社は「2030年に世界一の企業になる」という目標を掲げています。この世界一には2つの意味を持たせています。それは「相対価値における世界一」と「絶対価値での世界一」です。

まず、相対価値で世界一とは、当社が参入するカテゴリーにおいて世界シェアNo.1を獲得し、2030年までに売上高1.4兆円、コア営業利益率17%を達成することです。対して、絶対価値で世界一とは、当社にしか生み出せない商品・サービスの展開を通じて、ビジョンである「NOLA & DOLA」を具現化し、さまざまな「不」の解消と一人ひとりの「夢」の実現に貢献することです。この絶対価値を追求できるかどうかは、当社が提供する商品やサービスがもたらす価値を、他社の追随を許さないほどのスピードで進化させ続けられるか否かにかかっています。

当社が「共生社会」の実現を達成するには、事業展開を通じて持続的な成長を果たしつつ、あらゆるステークホルダーに貢献し、社会に必要な存在として認められなければなりません。相対価値と絶対価値を同時に追求し、双方で世界一となることは、地球環境、社会、当社などの持続可能性の観点で重要です。

中長期ESG目標「Kyo-sei Life Vision 2030」と第11次中期経営計画

上述したパーパスやミッション、ビジョン、バリューを踏まえて、2020年に公表した中長期ESG目標「Kyo-sei Life Vision 2030~For a Diverse, Inclusive, and Sustainable World~」(以下、「Kyo-sei Life Vision 2030」)では、2050年に「共生社会」を実現すると仮定し、これを起点にバックキャスティングで2030年の当社の“あるべき姿”を定め、このゴールに向けて進むべき道筋を明らかにしたものです。

また、2021~2023年の事業戦略を描いた第11次中期経営計画では、変化が常態化したNew Normalな近年の事業環境を踏まえて、当社の差別的競争優位性の源泉が「人的資本」にあるとあらためて定め、これを最重要戦略に設定し、経営資源を傾注して早急な強化に取り組んでいます。もっとも人的資本とは社員そのものに他ならず、どのような戦略を立てたとしても社員それぞれが主体的に取り組まなければ、画餅に帰すことは論を俟ちません。このため社員一人ひとりの“ありたい姿”を尊重し、これらとシンクロした中期経営計画となるようフォアキャスティングに重点を置いて立案しています。

グローバルに事業を展開する企業として、全ての活動において社会的責任を果たすことが、強く求められています。このためバリューチェーン全体で「Kyo-sei Life Vision 2030」と合致したアクションを取り続けることが重要です。また、第11次中期経営計画は3ヵ年計画ですが、毎年1回の頻度で3年先を見据えて見直す「ローリング計画」方式を採用しており、常に当社を取り巻く環境の変化を取り込んで修正しています。特に短期的な財務業績は、生活者の消費実態や購買行動の変化、競合他社の動向、サプライチェーン上の協働先との関係性など、さまざまな要素が複雑に絡み合っており、これらの動きに柔軟に対応できなければ、計画を実現することはできません。

以上のように、「Kyo-sei Life Vision 2030」は絶対価値の追求の色合いが濃く、対して第11次中期経営計画は相対価値に重きを置いたつくりとなっています。しかしながら、この2つの計画を同時に遂行することは、相対価値と絶対価値の双方を追求することに他ならず、完遂することができれば確実に「共生社会」は実現できると信じています。

ここで、2022年度の取り組みをいくつか紹介したいと思います。まず、2016年より進めている使用済み紙おむつのリサイクル事業です。本事業は鹿児島県志布志市および大崎町と実証実験を進めており、独自開発したオゾンによる殺菌技術等を用い、すでに未使用のパルプと同品質の衛生的で安全なパルプへとリサイクルする技術を確立しました。2022年5月には、吸水紙の一部にリサイクル材を使用した大人用紙おむつを製造し、6月から鹿児島県内の一部の介護施設でテスト使用を開始しました。本品を使用した介護施設からは、「通常品と比べてまったく遜色ない」との評価に加えて「リサイクル材を用いた紙おむつを使うことによって、手軽に環境問題の解決に参加できる」とのお言葉をいただきました。このような進捗を踏まえ、2023年度は商業運転に移行する計画です。

商品ごとの温室効果ガス(GHG)排出量の見える化につきましては、2022年5月にGHG排出量可視化プロジェクトを開始しました。世界的な算定基準であるGHGプロトコルに準拠した排出量算定システムの構築が完了し、2023年度から試験的に算定を進める予定です。より精度・鮮度の高いGHG排出量を算定するために、資材サプライヤーの協力を得て、資材ごとの一次データを活用した商品別GHG排出量の算定に取り組んでいます。2023年度中に算定規程とシステムのチューニングを完了させ、2024年度には一部の商品で消費者をはじめとするステークホルダーの皆様にGHG排出量について情報発信することを目指しています。

2022年度の連結業績は、売上高が14.7%増収の8,980億円と過去最高を更新し、第11次中期経営計画策定時に設定した2023年度目標の8,880億円を上回りました。コア営業利益は2.4%減益の1,196億円となりましたが、下期には原材料価格や物流費が高騰したにもかかわらず当社が創出した付加価値に見合う価格への上方修正である「価値転嫁」等が奏功し、2021年度下期との比較において増益を達成しており、収益性は着実に改善しています。

地域別の状況ですが、日本ではフェミニンケアで生理用ナプキンを中心に高付加価値化を促進し、市場シェアも過去最高を更新するなど全社の収益面に大きく貢献しました。Kireiケアは、COVID-19の影響に伴い、除菌や清潔、安全志向の高まりもあり、ウェットティッシュの使用習慣が根付く中、価値転嫁を実施したことで市場の活性化につなげました。パートナー・アニマル(ペット)ケアでは、犬や猫の健康に配慮したフードを中心に価値転嫁が進んだことで、高成長を維持し利益貢献につなげました。ウェルネスケアではマスクの販売数は微減となりましたが、大人用紙おむつのパンツタイプや軽失禁ケア商品を中心に下期より価値転嫁を積極的に進め好調を持続できました。

アジアでは、インドネシアやインドなど価値転嫁を積極的に進めることができた国では、増収となるなど順調に推移しました。中国ではベビーケアが減益となりましたが、これは構造改革の一環として日本製品の輸入から収益性の高い中国製プレミアム品へのシフトを進めたことによるコスト増と、eコマース企業を中心とした流通在庫の圧縮などの影響によるものです。一方、中国のフェミニンケアは、都市部でのロックダウンによる流通上での混乱はあったものの、高付加価値品であるオーガニックコットン素材の商品やショーツ型ナプキンなどが引き続き好調に推移しました。

その他の地域で増収増益を牽引したのは、北米のパートナー・アニマル(ペット)ケアです。猫用のおやつやノミ駆除用の首輪などで、付加価値を高めながら価値転嫁を実施した結果、収益性を大きく改善できました。また中東では、積極的に市場を開拓しているフェミニンケア、ウェルネスケアにおいて高い成長を維持し、周辺国への輸出なども好調なため引き続き売上高は伸長しています。ブラジルでは、第1四半期はCOVID-19の影響を受けましたが、第2四半期より、コロナ禍で成長したECチャネルを活用し、ベビーケアを中心に成長基調へ転換することができました。

なお、第11次中期経営計画の具体的な成果については本レポートの36ページから、5つの重点戦略ごとに推進リーダーによる報告を掲載していますので、併せてご覧いただけると幸いです。また、「Kyo-sei Life Vision 2030」の発表と併せて、2022年度から同計画の重要取り組みテーマと連動した目標を執行役員の業績評価に導入していましたが、2023年度からは、全社員の評価にESG視点の目標を組み込むこととしました。

NOLA&DOLA NOLA&DOLA

「共振の経営」の浸透

世界一へと成長することを目指す上で、当社のバリューであり、独自のマネジメントモデルである「共振の経営」をグループ全体で推進し、価値観や行動指針、経営陣の想いを全社員に浸透させることは非常に重要です。

「共振の経営」は、経営方針や戦略など経営陣の視点と、現場の最前線で働く社員の知恵といった双方の視点や考え方を、お互いが密にコミュニケーションを取り、学び合うことによって、全社目標に向けた一人ひとりの主体的な行動を生み出す仕組みです。経営陣の力と社員の力が振り子のような共振を呼び、お互いの成長とグループ全体の成長へとつながることが私の理想です。経営陣と現場の社員が互いの視点や知見を共有できれば、戦略遂行において全員のベクトルを合わせることが可能です。全社員の力が同じ方向に結集したとき、それは組織全体の大きな力となります。経営陣と社員の間に意識や知見のギャップがなければ、一人ひとりが戦略の意図を理解し、自らの意思で行動できるようになります。そのような社員の主体的な行動は、ユニ・チャームを長期的な成長に導きます。

当社は売上の60%以上を日本以外の国・地域で獲得しており、全社員に占める日本国籍の社員の割合は20%程度にとどまっています。今後、さらにグローバルな競争で勝ち残り、世界一を目指すには、各地で活躍する社員がこれまで以上にリーダーシップを発揮することが欠かせません。そのため、経営の主体は極力現地に委ねていますが、それでいて、80を超える国・地域で働く社員がバラバラにならず一致団結できているのは「共振の経営」が深く浸透しているからだと思います。最終的には全ての法人のトップをその土地で生まれ育った人材が担い、現地主体で法人経営がなされるようにしていきたいと考えています。

「共振の経営」で人材が育つ

繰り返しになりますが、当社の強みを掘り下げたとき、人的資本が価値創造の全てに大きく関わっていることが分かります。研究開発や技術、営業、生産、マーケティングなどさまざまな分野においてイノベーションをリードする優秀な人材の育成が、当社の強みを伸ばし成長を加速させています。このようなイノベーションをリードし、何事においても主体的に考え、行動できる人材を当社では「共振人材」と呼び、全社員が「共振人材」へと成長することを目指しています。この「成長する」という表現に象徴されるように、私は「人を他者が強制的に育てることはできない。自ら成長するものであり周囲はこれを支援できるだけ」と考えています。そのため、社員一人ひとりが自ら気付き、主体的に成長するために必要と考えられる、さまざまな仕掛けや仕組みである「共振の経営」を企業運営の中核に据えています。「共振人材」は、「共振の経営」を実践する中で成長し、強化されています。つまり、「共振の経営」とは、戦略遂行と同時に社員の成長を促す仕組みなのです。

なお、当社では人材育成に加えてデジタル技術の強化も重視しています。当社は消費者の潜在ニーズを的確につかみ、これを商品・サービスの価値として付加することで差別化を図ってきました。これまでは長年の経験と勘に頼っていましたが、これをより多くの社員が実践できるようにするために、デジタル技術を活用した科学的アプローチに基づく手法へと進化させるべく取り組みを進めています。この際、デジタル技術の適切な利活用は、今後の価値創造のスピードと品質に関わります。そのためリスキリングを奨励し、デジタル人材への成長を促しています。全ての社員がデジタルを適切に活用することで、消費者の潜在ニーズに合致した価値を商品化するスピードと質を高めていきます。

2023年度は「先手必勝、後手でも必勝」

最後になりますが、2023年度の見通しについて触れたいと思います。コロナ禍などの影響で、対面での討議などが思うように実施できなかったこともあり、さまざまな場面において当社の強みであった“スピード”が低下しつつあると猛省しています。「巧遅は拙速に如かず」「先手必勝」を旨として、スピードを取り戻したいと思います。

なお先手を打つために重要なのは「先見力」、つまり変化をいち早く察知する力です。とはいえ、変化が常態化したNew Normalな近年、その兆しをつかみ損ねることもあると思います。しかし、仮に先手をつかみ損ね、後手に回ったとしても「対応力」が高ければ巻き返すことは可能です。このような事柄を踏まえて2023年度は「先手必勝、後手でも必勝」をスローガンに、グループ一丸となって先見力と対応力を高めて価値創造を進めます。

売上高の目標は第11次中期経営計画の当初案より上方修正し、7.3%増収の9,635億円、コア営業利益は17.9%増益の1,410億円とし、それぞれ過去最高を更新する計画です。そして、各国・地域において価値転嫁につながる各種の戦略をスピーディーに進めることで成長を促します。また、適正な利益還元を最も重要な経営方針のひとつと考え、収益力向上のため企業体質の強化および成長に向けた積極的な事業投資を行いながら、安定的かつ継続的な還元方針を堅持しています。2023年度の利益還元につきましても、継続的な成長を実現するための事業投資を優先しながら、年間配当金は1株につき2円増配の40円とする予定です。また、自己株式の取得も必要に応じて機動的に実施することで、総還元性向50%を維持します。

戦略においては引き続き消費者理解と新市場創造に努めます。まず、消費者を深く理解することは、当社の差別的競争優位性の観点で非常に重要であり、重点的に強化します。特に、将来の消費を担うZ世代に重心を置いてアプローチし、彼らの潜在ニーズに応える価値の追求に注力します。Z世代はソーシャルネイティブとも呼ばれ、さまざまなSNSを使いこなすなど、高い発信力で他の世代にも波及効果をもたらします。また、Z世代は環境問題や社会課題への意識が高く、SDGsやサステナビリティについて高い関心を示し、自身も積極的に関与します。当社が取り組みを進めている絶対価値の追求は、この世代の関心事に合致しており、Z世代をきっかけとして当社の商品やサービスを世界中に広げることができると確信しています。

新市場創造では、ウェルネスケアやKireiケア、パートナー・アニマル(ペット)ケア関連商品において、新カテゴリーを創出し、市場として確立することを目指します。エリア戦略においては、エジプト、サウジアラビアの既存の生産拠点を活かしながら、アフリカへの展開を積極的に進めます。

当社は、赤ちゃんからお年寄り、パートナー・アニマル(ペット)まで広い世代で必要とされる商品・サービスを提供しています。特に生理用品は、初潮から閉経まで長期にわたって使用していただくので、当社の商品やサービスは女性の人生の伴走者として重要な役割を担っています。この「一人ひとりの生涯に寄り添う」ことこそ、当社の持続可能性(サステナビリティ)に他ならないと考えています。世界中の人々の「『ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)』を最大化」することで、当社が「世界一」へと成長し、「共生社会」を実現できるものと信じています。

2023年6月

ユニ・チャーム株式会社

代表取締役 社長執行役員

高原 豪久

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