社長メッセージ
「3つのR」が導く、2030年世界No.1への挑戦
絶対価値を起点に
代表取締役
社長執行役員
高原 豪久
̶ 世界はかつてないスピードで変化し、企業もまた進化を迫られています。常に激しく変化し続ける経営環境の中で、ユニ・チャームはどのような未来を描こうとしているのか。高原社長のビジョンをお聞かせください。
高原 豪久(以下、高原) 私たちのありたい姿は、「揺るぎない『世界No.1』の価値創造企業」です。その実現に向けて2030年のチャレンジ目標に「売上高1.5兆円、コア営業利益率17%、ROE17%、時価総額4兆円」を掲げましたが、これは他社との比較を容易にするための「相対価値」を表したに過ぎません。大切なのは当社らしい「絶対価値」を生み出し続けることです。具体的には2024年に公表したコーポレート・ブランド・エッセンス「Love Your Possibilities ~なんでもできそう。いつでも、いつまでも。~」(以下、「Love Your Possibilities」)を体現し、生活者や社会、地球環境などを含むすべてのステークホルダーの可能性を最大化し、「共生社会」の実現に貢献することです。
コーポレート・ブランド・エッセンス
「Love Your Possibilities」
すべての"人(Your)"が秘めている限りない"可能性(Possibilities)"を信じ、その可能性を"慈愛(Love)"にあふれた利他の心で発揮することで、互いに支え合う「共生社会」の実現に貢献したいという想いが込められています。
第12次中期経営計画の振り返り次の成長へ、舵を切る
̶ 「Love Your Possibilities」を公表した2024年は第12次中期経営計画「Project L」をスタートした年でもありました。この「Project L」では、先ほどの「絶対価値」をどのようにして具体的な戦略に落とし込んだのでしょうか?
高原 「Project L」では、女性を基点に発想することで「共生社会」の実現に寄与する「絶対価値」を創出し、世界中の生活者とペットのライフタイムバリュー(顧客生涯価値)を最大化することを基本戦略としました。この基本戦略に沿ってペットケア、ウェルネスケア、フェミニンケア、ベビーケアという4つのSBU(Strategic Business Unit/戦略的事業単位)の戦略を立案し、さらに実際に事業を展開する国・地域といったLMU(Local Management Unit)の戦略へと落とし込みました。具体的には、日本をはじめとする成熟した市場でのライフタイムバリューを最大化する事業モデルの構築や、中国や東南アジア等でのペットケアの基盤づくり、南米やアフリカなど次の成長エンジンへの種まきなどを進めました。さらには使用済み紙パンツ(紙おむつ)のリサイクル事業である『RefF(Recycle for the Future)』の社会実装による循環型社会実現に向けた活動を展開しました。
このような取り組みが奏功し、2024年度は売上高9,890億円、コア営業利益1,385億円と過去最高の業績となりました。しかしながら2025年度は、売上高9,453億円(前年度比-4.4%)、コア営業利益1,089億円(同-21.4%)となり、成長性と収益性の双方に課題を残す結果となりました。
̶ 2024年度は過去最高業績であったにもかかわらず、2025年度に減収減益となった要因は何ですか?
高原 内部要因と外部要因があります。内部要因としては生理用品や紙パンツなどで培った高品質と安定供給を志向する当社ならではの思考特性・行動特性が、過剰なまでの慎重姿勢を招き、ウェルネスケアやペットケアのグローバル展開が遅れました。外部要因としては、世界的なインフレによる節約志向の高まりやアジアでのローカル企業の台頭、TikTok等のSNSやECといったデジタルチャネルで急激な市場構造の変化が進み、競争が一段と激しくなったことが挙げられます。
内部要因と外部要因が複雑に絡み合ってはいますが、最も大きく作用したのは従来の思考特性・行動特性から抜け出せなかったことだと思います。このような問題に対処すべく2025年度にはデジタルマーケティング分野への投資強化や、約60億円にも上るアジア地域での資産減損を断行したため、短期的な利益の押し下げが発生しました。
以上のような劇的な事業環境の変化を踏まえて、当初2024年から2026年までの3ヵ年を対象期間としていた第12次中期経営計画「Project L」を2025年で打ち切り、新たに5ヵ年計画として策定した第13次中期経営計画「Project Renaissance(プロジェクトルネサンス)」へと移行する決断をしました。
第13次中期経営計画 「Project Renaissance」の始動
̶ それでは第13次中期経営計画「Project Renaissance」について具体的に教えてください。
高原 「Project Renaissance」は、「ユニ・チャームを生まれ変わらせる」べく、最新のAI技術と人間の感性を融合させ、「新たな成長軌道」へと回帰するための構造変革を実行する計画です。
この計画の“核”となるのが「3つのR」~Renaissance(回帰)、Rebirth(新生)、Resonance(共振)~です。まず「Renaissance(回帰)」は、効率や規模を追うあまり見失いかけていた「人の感性」に再び光を当て、「人間中心」の価値創造へと回帰することを意味します。「Rebirth(新生)」は、自前主義や「ユニ・チャームは製造業だ!」という固定観念から脱却し、タイムリーかつスピーディーに顧客の要望に応えられる事業モデルへと新たに生まれ変わることを目指すものです。そして「Resonance(共振)」は、サステナビリティを成長エンジンとして社会と共振し価値を共創することを意味しています。この「3つのR」を連動させることで、他社が模倣できない独自性の高い「絶対価値」を創造し、生活者にとって「ユニ・チャームの商品やサービスのない生活は想像できない」と言っていただけるような“ライフタイムパートナー”へ進化します。
Renaissance
̶ 「3つのR」について、もう少し詳しく教えてください。まず「Renaissance(回帰)」では、何に回帰しようとしているのでしょうか?
高原 14~16世紀のルネサンスが「神中心から人間中心へ」の回帰であったように、私たちも「モノ(商品)中心」の大量生産モデルから、「人間(生活者一人ひとりの人生)中心」の価値創造へと回帰します。デジタル技術を最大限活用することで、究極のアナログである「人の痛みや不快」に深く寄り添うという決意表明でもあります。当社の最大の武器は、赤ちゃんから高齢者、ペットに至るまで、生活者の一生涯に寄り添えることです。これまではSBUごとに分断されていたさまざまなデータをAIで統合し、「ライフサイクルインサイト」を探索できるインフラを構築します。これによりライフステージの接点を精緻に捉え、ご本人でさえ自覚していない潜在的な不快を先回りして解決する提案が可能になります。
この価値創造を俊敏に実行するために、これまでのマーケティング部門や商品開発部門といった機能別組織にSBUという横串を通すことで意思決定と実行の双方を早く(速く)します。また、全世界の約1,300のスクラム(課やグループといった最小マネジメント単位)が週次でアクションプランを策定・実行・修正することで環境変化に素早く対処する「OODA-Loop」メソッドを実践しています。これにAIが常時情報を収集・分析し、人間が見落としがちな微細なデータから得た洞察をフィードバックすることで「OODA-Loop」を加速する「OODA-Loop with AI」を始動します。
この「OODA-Loop with AI」を実践する際に大切なことは、「守・破・離」を忘れないことです。「守」とは、徹底した現場主義で最善を学び、定石を体得することです。この「守」の上で、AIが当社独自のライフサイクルデータをバイアスを排除して分析することで、これまでの成功体験や常識を打ち破る「破」へと進みます。そして、コーポレート・ブランド・エッセンスに掲げた「Love Your Possibilities」の具現化を目指し、誰も気づかなかった潜在的な欲求を満たす絶対価値を創造することで新たな市場を切り拓く「離」へと昇華させます。この「守・破・離」のプロセスによって、高付加価値な商品・サービスを幾度となく再現することが可能だと考えています。
Rebirth
̶ 「Rebirth(新生)」では、自前主義から脱却するとしていますね。
高原 事業ポートフォリオの改革として、ペットケアとウェルネスケアに経営資源を積極的に投入し、売上高構成比を2025年度実績の38%から2030年度には44%にまで引き上げることで、年平均成長率(CAGR)約13%という高い成長を実現します。
地域では成長ポテンシャルの高いインドや中東、アフリカ、南米等の「グローバルサウス」を重点とします。これらの地域で素早く成長するには、自前主義からの脱却が重要です。従来の「なんでも自分たちでやらなければならない」という“こだわり”を排し、現地で生産インフラを有している優秀なOEM/ODM*1企業と戦略的に協働するスタイルへと舵を切ります。この際、提携先企業とは単に製造委託をするだけではなく、調達から製造、配送に至るサプライチェーン全体の最適化を共通の目的とし、AIを活用して双方が有するデータを連携することでエリア特性にフィットした圧倒的なスピードとコスト競争力を獲得することを目指します。このような大胆な外部リソースの活用とAIシフトによって、新興市場のボリュームゾーンでのシェア拡大と、投資収益率(ROI)の向上、さらには持続的な収益改善を同時に実現する強靭な体質へと生まれ変わります。
*1 OEM (Original Equipment Manufacturing): ユニ・チャームが設計やデザインを行い、製造のみを外部委託すること。ODM (Original Design Manufacturing):製造だけでなく、設計やデザインなどのすべてを外部委託すること。
Resonance
̶ 経営資源の集中や自前主義から脱却することでスピードと効率を高める一方、3つ目の「Resonance(共振)」では、どのように生活者や社会との共創を実現しますか?
高原 私たちは、サステナビリティへの取り組みはコストではなく、生活者や社会と深く響き合い、強い絆を紡ぐイノベーションの源泉と位置づけています。その中核が、使用済み紙パンツの水平リサイクル事業『RefF』の社会実装です。この取り組みは、使用済み紙パンツを回収し、独自のオゾン処理技術で滅菌・漂白し、新品同様のパルプや高分子吸水材として再資源化する世界初*2の試みです。すでにリサイクルしたパルプを原材料として活用する取り組みは広がっており、2022年には介護施設用紙パンツ『ライフリー 横モレ安心テープ止めRefF』を、2024年にはベビー用紙おむつ『マミーポコパンツRefF』、猫用トイレタリー用品『デオトイレ 消臭・抗菌シートRefF』、2025年にはリサイクル高分子吸水材を使用した猫用紙砂®『デオサンド 香りで消臭する紙砂®RefF ピュアフローラルの香り』を発売するなど、主要ブランドで商品を展開しています。
この『RefF』によるサーキュラーエコノミーの社会実装によって、消費者を「単に日用品を使うだけの人」から「循環型社会を一緒につくる・回すパートナー」へと変え、「ユニ・チャームの商品を使うこと=地球の未来を守ること」へと広げます。このような“志”で結ばれた“絆”は、安易な価格競争などに巻き込まれない強力なブランド・エクイティになるものと信じています。
また、当社はお客様の一生涯に寄り添うプラットフォームとなる生理・体調管理アプリ『ソフィBe』にも注力しています。
*2 オゾン処理技術を使用した紙パンツから紙パンツへの水平リサイクル技術について(2020年12月 ユニ・チャーム調べ)。
̶ 『ソフィBe』とは、どのような価値を提供するアプリなのでしょうか?
高原 『ソフィBe』は単なる生理管理アプリではなく、女性の心身に大きな影響を与えるホルモンに着目し、日常的な対話や生成AIチャットを通じて女性のウェルビーイングに寄り添うパートナーとなることを目指すものです。『ソフィBe』によって、商品購入時というお客様との「点」だけの接点を、日々つながり続ける「線」の関係へと広げます。そこで蓄積したデータを基に個々の体質に合わせてパーソナライズした商品やサービスへとつなげることで、お客様との「共創」関係を構築し、他社には容易に模倣できない濃密な信頼関係を構築します。
中長期ESG目標「Kyo-sei Life Vision 2035」
̶ 第13次中期経営計画「Project Renaissance」では大きな変革を志向していますが、2020年に公表した中長期ESG目標「Kyo-sei Life Vision 2030」の5年間の成果を踏まえて見直した「Kyo-sei Life Vision 2035」との関係やポイントを教えてください。
高原 「Project Renaissance」で掲げた生活者や社会との共創を着実に進めるために、2020年に策定した中長期ESG目標「Kyo-sei Life Vision 2030」および「環境目標2030」を統合し、2025年10月に「Kyo-sei Life Vision 2035」へと改訂しました。本目標では、これまでにステークホルダーの皆様から寄せられたご意見を基に、大きく3点を見直しました。
第一に、重要取り組みテーマを20項目から16項目へ再編し、より具体的・定量的な指標に見直しました。「私たちの健康を守る・支える」の領域では、2035年時点の獲得ユーザー数を指数化して目標としています。第二に、自然環境に関する目標を「Kyo-sei Life Vision 2035」に一本化しました。気候変動対応やプラスチック削減等に加え、先述した『RefF』の社会実装により資源循環と環境負荷低減を一体化して推進します。第三に、2026年度より全社員の人事評価を「Kyo-sei Life Vision 2035」の重要取り組みテーマと紐づけ、全社目標から個人目標へと連動させることで、一人ひとりが本気で取り組める体制を整えました。私たちは、全社員で「Kyo-sei Life Vision 2035」を実行し、事業活動を通じた自然環境問題や社会課題の解決と、持続的な企業価値向上を目指します。
成長と資本効率を両立する
̶ 2030年の財務目標達成に向けた道筋を聞かせてください。
高原 私たちは2030年のチャレンジ目標として、「売上高1.5兆円、コア営業利益率17%、ROE17%」を掲げました。なお、不透明な事業環境に伴うリスクを厳しく見積もった上で、売上高1.3兆円を「コミットメント」ラインとしつつ、戦略の着実かつ柔軟な軌道修正によってあらゆる逆風を跳ね返し、売上高1.5兆円というチャレンジ目標に挑みます。
また、資本政策ではPBR(株価純資産倍率)が2倍程度で停滞している現状を打破するために、抜本的な見直しを決断しました。具体的には、第13次中期経営計画の5年間において総還元性向の指針を従来の50%以上から65%以上へと引き上げます。また、本業の「稼ぐ力」をさらに高め、5年間で最大1兆円規模の営業キャッシュ・フローを創出し、設備投資やDXなどの「成長投資」に約4,000億円、機動的な成長を支える「M&A待機資金」に約1,500億円を最優先で投入する予定です。その上で、余剰資金については規律を持って株主還元に充当し、純資産を適正にコントロールします。「稼ぐ力」を高め、得られたキャッシュを「成長へ再投資」し、さらには「規律を持って還元し、ROEを高める」。この好循環を強力に回し続けるという観点で、「Project Renaissance」の5ヵ年を「事業成長と資本適正化の集中期間」と位置づけています。
̶ 最後にステークホルダーの皆様へメッセージをお願いします。
高原 コーポレート・ブランド・エッセンス「Love Your Possibilities」を体現すべく、全社員が自らの可能性を信じ、互いに響き合う「共振の経営」を実践し、個々の能力を遺憾なく発揮します。株式市場からのPBR再評価と株主価値の飛躍的な向上、そして2030年までに「世界No.1」を成し遂げます。新たな成長ステージへと進化するユニ・チャームに、どうぞご期待ください。
2026年6月
ユニ・チャーム株式会社
代表取締役 社長執行役員
高原 豪久